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ときのこえ
2012.09.18(火)

ときのこえ 2012年9月1日号

THE WAR CRY 第2631号 救世軍公報

私は戦う! 最期に至るまで戦う! 勝地 次郎

「今日そうであるように、女性たちが泣く限り、私は戦う。今日そうであるように、幼い子どもたちが飢える限り、私は戦う。今日そうであるように、男たちが刑務所に出入りする限り、私は戦う。酔漢が残っている限り、街頭に哀れな失われた娘がいる限り、神の光を受けない一人の暗黒な魂でも残っている限り、私は戦う。私はまさに最期に至るまで戦う!」
この言葉は、救世軍の創立者(初代救世軍大将)ウイリアム・ブースの最後の公開演説の末尾を飾る言葉として知られています。
ブースは、1912年8月20日に天に召されていますが、それに先立つ5月9日、ロンドンの王立アルバート館(現在のロイヤル・アルバート・ホール)で、救世軍の創立以来の働きに言及しながら、その働きの根幹にあった思いをこの言葉に凝縮し、後に続く救世軍の信徒たちを奨励したのです。それから百年を経た現代においても、この言葉は決して色褪せず、より良い社会の実現を目指す人々に、同じ思いで連帯することを呼びかけています。

ブースの働きは、1865年7月、東ロンドンの貧民窟で特別伝道に従事することから始まりました。当時のイギリスは産業革命後の社会的混乱の中、失業者が増加するなど治安が悪化していましたが、東ロンドンは最も治安の悪い地域でありました。
『ブラインド・ベガー』という居酒屋の前で立ち止まったブースは、一冊の書物を取り出し、賛美歌の一節を読み上げ、こう叫んだのです。
「東ロンドンのすべての人に天国がある! 立ち止まって考え、キリストを救い主として信じる者には天国がある!」 居酒屋の窓から注がれる酔っ払いの視線。やじや罵声、ブースの周りに群がる多くの人々。そしてその後ろから投げられた卵が彼の顔に命中して、黄身がゆっくりと頬を伝わって流れる。その時、ブースは話を中止して静かに祈り、帽子を目深かにかぶって、急ぎ足で立ち去りました。
ブースの説教に耳を傾けなかった多くの人々。しかし、ブースの心には、彼を救い、聖め、伝道者として召してくださった主イエスの「憐れみの心」が強く刻まれていたのでしょう。彼は、
「どこに行ってこんな異教徒(真の神を知らない人)を見いだし得るだろうか、お前の勤労をこれほどに多く要する場所があろうか?」と心に示され、帰宅後、妻のカサリンにこう告げたのです。
「今にして自分の終生の運命を発見した。」そして、神を知らない人々の救いのために、妻と共に立ち上がり、救世軍の働きを起こしたのです。
主イエスは、その伝道の始めにこう言われました。
「悔い改めよ。天の国は近づいた」(マタイによる福音書4章17節) 天の国! それは神の支配を意味しており、そこにおいてこそ、人は「罪赦された幸いな人」として生きることができ、
「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである。」(ヨハネによる福音書3章16節)という神の約束にあずかることができるのです。
ブースが説いた天国―それは主イエスが説いた「天の国」でありました。主イエスは、深い同情心をもった方でもあります。
「群衆が飼い主のいない羊のように弱り果て、打ちひしがれているのを見て、深く憐れまれた」(マタイによる福音書9章36節)という聖書の記述は、主イエスの同情心が深く、豊かなものであったことを示しています。「憐れみ」という言葉は「はらわた(内臓)が痛むほどに同情する」という意味であり、主イエスは、単に心が痛む以上の痛みをもって、苦しみ悩む人々のことを思いやられたのです。ブースが東ロンドンの人々に抱いた同情心は、主イエスの同情心に促されたものであったことでしょう。
第6代救世軍大将となったアルバート・オスボーンが作詞した歌では、このように歌われています。

救い主イエスは昔 人をあわれみて
み救いを与うるため 心をくだきぬ
今も人は主にそむき み恵みを知らず
悲しみて羊のごと 闇路をさまよう
主の霊よくだりて あわれみを満たし
愛を告げ愛をおこのう 者となしたまえ
©救世軍歌集226番

この歌で歌われている心こそ、主イエスの心であり、ブースの心であり、救世軍の信徒の心なのです。
ブースが叫んだ「今日の現実」は、19世紀後半のイギリスの現実のみならず、現代の日本の現実とも言えるでしょう。ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)に泣く女性たち、虐待による傷を心身に受け、愛に飢える幼い子どもたち、法律を犯し罪の一線を越えてしまった男たち、ストレスの解消をアルコールに求めアルコール依存に陥った人々、将来に確かな人生の土台を見いだすことができず、一時の享楽を求めて巷をさまよう少女たち。彼らもまた、ブースが言う「神の光を受けない暗黒の魂」であるのです。今や、世界の124の国と地域で活動することになった救世軍の働きは、この「神の光を受けない暗黒の魂」の救いを目指したものであり、彼らの人生を光と喜びと平和へと導くためでありました。
救世軍に属する信徒の生活目標として、こんなことが掲げられています。
―神には感謝と信頼、隣り人には親切、家庭においては思いやり、商売においては正直、社会においては礼儀、仕事においては忠実、事をなすには忍耐、不幸な人々には同情、弱い人々には助力、悲しむ人々には慈愛、邪悪に対しては抵抗、意思の強い人々には喝采、悔い改める人々には寛容、幸運な人々には祝意、霊魂の救いには熱意、自分としては心の平安、世界には平和―ここに、神の光を受けた幸いな人の姿があるのです。
居酒屋の前で説教したブースに対して、罵声を浴びせた人々、ブースが説く天国の恵みを容易に受け入れなかった人々の中からも、救われ、新しい人生を歩む人たちがたくさん現れました。そして、彼らもまた、「他の人を救うために救われた」者として、ブースと共に神の愛を伝えるために立ち上がったのです。
救世軍が毎年9月におこなう感謝祭募金は、ブースが憂慮した「今日の現実」に真の光をもたらすことを期して、多くの方々に「愛の連帯」をお願いするためのものです。今年も、ご支援とご協力を心からお願い申し上げます。
ブースは、今の世に生きる人々にも呼びかけていることでしょう。
「あなたもキリストを信じ、天国の幸いを知る人になっていただきたい。あなたも私と共に神の愛を伝えるために立ち上がっていただきたい。……私はまさに最期に至るまで戦う!」

(救世軍士官〔伝道者〕・書記長官)

ときのこえ2012年8月号表紙

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